加工における工具とパラメータの大きな役割
扱う部品、被削材および加工プロセスが多岐にわたって異なっていても、一定数のワークを、希望する品質で、特定の時間内に、適切なコストで加工するという目標は共通です。はじめに
扱う部品、被削材および加工プロセスが多岐にわたって異なっていても、一定数のワークを、希望する品質で、特定の時間内に、適切なコストで加工するという目標は共通です。
製造者は概して、工具の選定や加工に始まり、反応的に問題を解決するような狭い見識に従って目標を達成しがちです。このようなアプローチに逆らえば、コスト削減や効率性の向上につながります。問題が起こるのを待って、それから個々の機械加工を調整する代わりに、製造者は、廃棄部品やダウンタイムを無くすよう、まずは積極的に前もって計画を立てるべきです。安定し信頼できるプロセスを確立したあと、生産経済の概念を適用すると、生産率と製造コストのバランスが取れます。それゆえ、切削工具と加工パラメータを慎重に選べば、加工を最適化し生産目標を達成することができるのです。
工具と切削条件の選定
金属切削工具の選定は、通常加工に合わせます:現場は、鋼やアルミニウムのような特定の被削材の加工向けあるいは粗加工とか仕上げ加工のような特定の加工様式向けに工具を選定します。工具選定において、より有利なアプローチは、その機械加工が製造者のビジネスに全体的に合っているかどうかを、考慮したうえで始めます。
このようなアプローチで最も優先する事柄は、プロセスの信頼性の確保と、廃棄部品や予期せぬダウンタイムの発生を防ぐことです。信頼性とは、一般的に言うところの、尊重すべきルールの問題です。現場が、切削効果、熱、および工具におこる化学現象を認識せず重点を置かないようなら、信頼性が工具損傷に替わってしまいます。
安定したプロセスを設定したら、ツーリングの特性および切削条件は、切削加工業の全体的な目標に合うよう選択されるべきです。例えば、最小コストで最大の生産量を得るには、単純な部品の大量生産を第一に考えるでしょう。しかし一方、高価な複合部品の多品種少量生産では、製造コストよりも、全体的な信頼性と正確性が重要視されます。柔軟性は、このような少量バッチ生産のツーリングシステムに求められる要件のひとつです(サイドバー参照)。
コスト効率が第一目標ならば、ツーリングはコーナ当たりのコストが低い工具を選ぶべきで、切削条件は、その選択とバランスを取って設定されなければいけません。加工パラメータは、プロセスの信頼性と同様に長い工具寿命にも重点を置くべきです。反対に、ワーク品質を最優先するならば、高性能で高精密なツーリングに適した切削条件を適用するのが、正しいアプローチです。
切削条件の選定と調整
新しい部品の加工計画の始めに行う、工具選定と切削条件の設定は、加工方法、工具形状および工具材を考慮して始めます。加工される部品によって、このような要件の大部分は決められます。例えば、ニッケル基の航空部品には、ポジ形状の超硬ソリッドエンドミルでプロファイル加工を適用するでしょう。この選択は、生産率、コストおよびワーク品質の観点による現場の基本目標によって導かれ、これは、目標達成のために適用される切込み深さ、送り量および切削速度によって左右されます。
異なるプロセスを選択するには、生産性、経済性または信頼性の観点から、良い結果を生み出すために、従来の部品加工作業を修正した方が適切です。このようなケースでは、切削条件から始まり、ジオメトリ、工具材、工具コンセプトおよび最後には加工方法を変えるなど、段階的なアプローチが推奨されます。特に、多くの現場では、逆の順番で行うことが多く、加工結果の改善を試みるとき、最初に工具や加工方法を変えることを考えがちです。
ずっと簡単で通常効果的な最初のアプローチは、始めに切削パラメータを変えることです。切削条件は広い範囲に影響があり、わずかな量の切削速度や送り量の変更により、工具交換による出費や時間を消費することなく、問題を解決したり生産性を向上させたりできます。
切削パラメータの修正で、希望した効果を出せなかった場合は、切削工具の形状を変更します。しかしながら、このステップは、パラメータを単に変更するよりも複雑で、新しい工具での加工を要するので、工具と加工時間のコストが増加します。切削工具材の切替えは、もう一つの選択肢ですが、これも時間とお金の大きい投資を伴うことになります。切削工具またはホルダ自体を変更することは必要かもしれませんが、これは、すべてにおいて製造コストがさらにかかる、特殊品への移行の可能性が高くなります。
これらすべてのステップで、希望する結果が得られなかったら、加工方法の変更が必要でしょう。重要なのは、どの要素が実際に希望する結果をもたらすのか明らかにするために、慎重に着実な方法で変化を探ることです。
早くて簡単なアプローチとして、多くの現場は CAM システムで工具選定を行います。この方法は、多くの場合効果的ですが、、最適な結果が出ない場合もあります。CAM システムは、個々の加工特性のすべてを考慮しているわけではありません。例えば、フライスカッタに適用するには、単に速度、送り量および DOC を入力すればいいと言う訳ではありません。最適な加工には、カッタの刃数、切り屑排出の良しあし、および工具の強度、フライス加工機の安定性といった要素が大きく関係します。切り屑除去率、工具寿命、表面粗さまたは経済性などが、製造加工の目標を達成する要素だと認識する必要があるのです。
速度、送りおよび切込み深さ
多くの現場マネージャは、単に切削速度を増やせば時間ごとの部品生産量が増え、それゆえ、製造コストが減少すると信じています。しかしながら、製造コストとなる要素は生産量以外にもあります。加工中に工具を変えるような行為は、部品品質や加工時間に悪い影響を及ぼしかねません。
切削速度の増加は、結果としてより速い生産が可能になりますが、工具寿命は減少します。より頻繁な工具交換と、その交換作業による機械の停止時間が増えることにより、加工コストは増加します。
切削速度が高くなると工具寿命が減少し、加工が安定しない一方、切込み深さや送り量の変更は、工具寿命に最小限の影響しか与えません。したがって、最善の結果は、切削速度の減少と比例した送り量と切込み深さの増加による、バランスのとれたアプローチによりもたらされるのです。最大可能切込み深さを適用すると、必要な切削パス数が減少し、それによって、加工時間も減少します。送り量も同様に最大化すべきですが、過剰な送り量は、ワーク品質と表面仕上げに影響を与えます。
一般的な例として、切削速度を 180 m/min から 200 m/min に上げても、切り屑排出量はたった 10 % しか向上せず、工具寿命には悪い影響を与えます。送り量を 0.2 mm/rev から 0.3 mm/rev に上げると、切り屑排出量は 50 % も向上し、工具寿命への影響は、あったとしても、最小限です。
ほとんどの場合、同等又はそれ以下の切削速度で送り量と切込み深さを増やすと、 切り屑排出量は、切削速度のみを増やした場合よりも、向上します。低い切削速度に大きい送り量と小さい切込み深さを組み合わせた加工の利点は、エネルギー消費を減らせることです。
切削条件の最適化の最終ステップは、最小のコストで最大の生産性の観点から適した要件を選び出し、その要件を切削速度で微調整して達成することです。20 世紀初頭、米国の機械エンジニア F.W. Taylor 氏によって開発されたモデルが、この選択を導きます。
このモデルには、決められた切込み深さと送りの組み合わせによって、工具の変質の心配が無く、予測可能および制御可能な切削速度用の枠があります。その枠内で、切削速度、工具摩耗および工具寿命の関係と内容および値を決めることがきます。 目標は切削速度を上げることですが、これにより加工時間を減らしても、工具摩耗が早まることで切削工具コストが過剰に上がることではありません。
工具母材と形状
最適な工具選択のさらなるステップは、工具母材と形状の特性を微調整することです。切削条件の調整は、希望する結果に合わせた変更作業のみですが、工具母材の変更による生産性の最大化は、母材特性のバランス変更を要します。
工具の切れ刃は、切削する材料よりも硬くなくてはいけないため、硬度は重要な工具特性です。高い硬度は、とくに高速加工で発生した高い温度下では、工具寿命を延ばします。しかしながら、硬い工具は脆弱です。粗加工、とくに大量で多様な切込み深さを要する断続切削などで起こる不均一な切削抵抗は、硬い切削工具の摩耗の原因となります。工作機械、固定器具またはワークの不安定性も、摩耗の促進につながります。
反対に、高含有コバルトバインダによる工具靱性の向上は、例えば、工具に耐衝撃性を与えます。しかし同時に、硬度を下げると、高速加工時または摩耗性の高いワークの加工時における、工具の摩耗および/または工具変性を早めます。重要なのは、加工する被削材を考慮して工具特性のバランスをとることです。
工具形状の選択も変更を要します。ポジの切削形状とシャープな切れ刃は、切削抵抗を減らし切り屑排出を最大化します。しかしながら、シャープな切れ刃は、R のある形状ほど強くありません。T ランドや面取りのような形状は、切れ刃を強化するために処理されています。
T ランド - 切れ刃の裏の強化部分 - は、ポジの角度で設定されており、特定の加工および被削材に対して十分な強度を提供し、可能な限り切削抵抗を最小化します。面取りは、シャープな切れ刃の最も弱い部分を四角くすることで、切削抵抗を抑えます。「硬い」切り屑制御ジオメトリは、切り屑を比較的鋭角にカールさせ即座に粉砕します。このようなジオメトリは、長い切り屑を出す材料に効果的ですが、切れ刃に余分な負荷がかかります。「軟らかい」切り屑制御ジオメトリは、切れ刃にあまり負荷がかかりませんが、長い切り屑を生成します。異なるジオメトリ - ホーニングのような工具切れ刃処理と同様に - は組み合わせることで特定の被削材における切削能力を最適化します。
おわりに
現場スタッフやおそらく生産エンジニアは切削条件および自身が関わる生産性にとても関心が高い一方、高い役職のマネージャは、製造加工全体のビジネス目標があるため、そのような数字への関心は低いことを覚えておくべきです。切削条件および切削工具を選択する人々は会社の機械加工の大体の目標を最初に考え、切削条件と目標達成を可能にする性能をもつ工具の選定を進めます。
最新の生産工程に合わせた多様な工具
製造は、ジャストインタイム生産戦略の導入が増えて、外部発注が伸びているため、大量生産から多品種少量生産に変わってきています。下請け企業は、断続的かつ繰り返し行う、小バッチ生産が増えています。生産性と工具コストとのバランスを考慮すると、幅広い加工に対応できる多様性や柔軟性のある工具選定が必要とされます。作業場の異なる工具の数を最小化すれば、工具を扱う時間が減少し、加工操作にかける時間が増えます。
同一の部品を長く生産するのに要する、特有の加工の生産性を向上する典型的な方法は、特定のプロセス用に特別に設計された工具を適用することです。特殊品を設計・導入することは、その費用を長い生産期間を通して徐々に精算できるので、時間とお金をかける価値があります。
しかしながら、多種で、小バッチの生産における生産性と工具コストのバランスは、幅広い加工に適用できる柔軟性をもつ多用途な「ユニバーサル」工具を使用することで、とることができます。このような工具は、ワークの変更時に新しい工具へ交換する時間を最小化することで、機械の停止時間を減らします。新しい工具を取り付けたり試験的に作動する必要もありません。
このような工具の例として、セコ・ツールズのターボミルカッタシリーズがあります。この工具は幅広い加工に多用途性を発揮し、コスト効果と高いパフォーマンスを提供します。このカッタのポジ形状は消費電力を削減し、長い工具寿命と切込み深さと送りの向上を可能にします。
ユニバーサル工具のもう一つのアプローチとして、組立式のため、多様な加工に適用します。セコ・ツールズのセレクション工具は、柔軟性を提供するために設計されました。この選ばれた工具には、すべての加工に最大の生産性又はコスト効率を必ずしも提供しない工具がわずかにあります。しかしながら、この工具は、最高の柔軟性が求められる、変化の早い様々な被削材やコンポーネントの加工において、最善で最も経済的な選択となるのです。