フライス加工における熱負荷の制御
これは、加工プロセスで生じる負荷と金属切削工具の適用に関する、記事シリーズの第三弾です。最初の記事では、基本的な金属切削概念と工具形状、送り量および旋削加工時の機械的負荷の関係性に着目しました。次の記事では、フライス加工の機械的負荷における、カッタの位置決めおよび工具パスの影響について分析しました。今回の記事でもフライス加工を扱います。工具および切削パラメータの選び方が、フライス加工プロセスの特徴である、断続的な切削条件下における、熱の生成、吸収および制御に与える影響についてご説明いたします。フライス加工における熱負荷の制御
はじめに
これは、加工プロセスで生じる負荷と金属切削工具の適用に関する、記事シリーズの第三弾です。最初の記事では、基本的な金属切削概念と工具形状、送り量および旋削加工時の機械的負荷の関係性に着目しました。次の記事では、フライス加工の機械的負荷における、カッタの位置決めおよび工具パスの影響について分析しました。今回の記事でもフライス加工を扱います。工具および切削パラメータの選び方が、フライス加工プロセスの特徴である、断続的な切削条件下における、熱の生成、吸収および制御に与える影響についてご説明いたします。
熱の課題
金属切削では、切れ刃がワークを変形し取り去る領域において、800 から 900 ℃もの高温が生じます。連続した旋削加工では、熱は一定しています。反対に、フライスカッタの刃は断続的に被削材を出入りし、切れ刃の温度は交互に上がったり下がったりします。
加工システムの要素は、金属切削で生成される熱を吸収することです。基本的に熱の 10 % がワークに、80 % が切り屑に、そして10 % が工具に流れます。高温は工具寿命を縮め、加工部品にダメージを与えるため、切り屑がほとんどの熱を取り去ることが最良です。
被削材の熱伝導率が違うと、他の加工要素と同様に、熱の移動に大きな影響を及ぼします。例えば、超合金の熱伝導率は低いです。低伝導率の被削材を加工すると、増加した熱が工具に移動します。さらに、硬い材料は軟らかい材料よりも、加工時により大きな熱が生じます。そして、概して、高い切削速度は熱の生成を増やし、一方高い送り量は、高温になる可能性がある切れ刃領域を広げます。
エンゲージ率
フライス加工プロセスの断続的な性質により、切れ刃が熱を生成するのは、総加工時間のほんの一部分でしかありません。刃が切削している時間の割合は、そのフライスカッタのエンゲージ率によって決められ、径方向切込み深さとカッタ径によって左右されます。
さまざまなフライス加工には、異なるエンゲージ率があります。例えば、溝穴加工では、加工時被削材はカッタの半分を囲んでいます;この工具径のエンゲージ率は 100 % となります。切れ刃は加工時間の半分を切削に費やすため、熱は急速に蓄積されます。この状況は、側面加工では異なり、どの時点においても比較的小さい割合でカッタがワークに接しているため、切れ刃が熱を空気中に放散する機会が多くあります。
工具に熱が過剰に蓄積すると、摩耗や変形が早まり、工具寿命が低下します。逆に、多くの工具材料は、必要最低レベル以上の温度で適用されなければ十分効率的に使用できません。
超硬切削工具は、特に、硬いが脆弱性のある粉末金属で構成されています。ある最低レベル以上の温度にあたると、粉末金属材料は靱性が向上し、その壊れやすい傾向が減少します。一方、切削温度が低すぎると、工具は脆いままで、破損やチッピングまたは構成刃先の原因となります。目標は、切削温度を理想的領域に維持することです。
切り屑厚さと熱の問題
このシリーズの先の記事では、径方向切込み深さ、切れ刃角、送り量および切り屑厚さが、フライス加工における機械的負荷に関係しているとして考察しました。切削速度を追加した、同じ加工要素が、フライス加工の熱負荷に影響を及ぼします。
切り屑厚さは、熱の状態と工具寿命に両極端に影響します。切り屑が厚すぎると、大きな負荷が過剰な熱を生成し、切れ刃の欠けや破損につながります。切り屑が薄すぎる場合は、切削は切れ刃の小さい部分で行われるため、摩擦と熱が増加し、摩耗が早まります。
フライス加工時に生成される切り屑は、切れ刃がワークを出たり入ったりするので、常に厚さが変化します。その結果、工具サプライヤは、最も生産的な厚さを維持できるカッタの送り量を計算するため、「平均切り屑厚さ」という概念を利用しています。
正しい送り量を決めるには、カッタのエンゲージ率や径方向切込み深さおよび切れ刃の切れ刃角などの要素が必要です。エンゲージ率が大きいと、希望する平均切り屑厚さを生成するのに必要な送り量は少なくなります。
同様に、カッタエンゲージ率が低いと、同じ切り屑厚さを得るための送り量は多くなります。カッタの切れ刃角も送り要件に影響します。切り屑厚さは、切れ刃角が 90 度の時最大になり、切れ刃角が小さくなれば、同じ平均切り屑厚さを得るのにより高い送り量を要します。
フルエンゲージのカッタの場合と同じ値で、切削領域の切り屑厚さと温度を維持するために、工具サプライヤは、カッタエンゲージ率が減少すると切削速度が増加するような代償要素を開発しています。
図のように、フルエンゲージ(エンゲージ率 100 %)のカッタの速度因数が 1.0 の場合、90 度の切れ刃角カッタが径の 20 % で切削するときの、補償速度因数は 1.35 となります。したがって、このフルエンゲージのカッタの切削速度が 100 m/min の場合、このカッタが径のほんの 5 分の 1 で切削し、最適な切り屑厚さを維持するのに必要な切削速度は、135 m/min です。
熱負荷の観点からすれば、エンゲージ率が小さいと、切削時間が、工具寿命を最大化するのに要する、最低温度を生成するには不十分です。切削速度が高くなると次第に熱の生成が多くなるので、高い切削速度と低いエンゲージ率を組み合わせると、好ましいレベルにまで切削温度を上げることができるのです。高い切削速度は、切れ刃が切り屑に接触している時間も減らすので、同様に工具に移動する熱も減少します。全体的に、高い速度は加工時間を減らし生産性を向上させます。一方、低い切削速度では加工温度が低下します。加工時に生成される熱が高すぎる場合は、切削速度を下げると、許容できるレベルにまで温度を下げることが出来ます。
切れ刃ジオメトリ
フライスカッタおよび刃のジオメトリは、熱負荷の制御に関係しています。基本的なカッタ形状は、、工具のワークに対する位置によって決められます。すくい角がポジの切れ刃(切れ刃の先が被削材から後部に傾斜している)をもつカッタは、切削抵抗が低く熱の生成が少ない一方、高い切削速度も可能です。しかしながら、すくい角がポジの工具は、ネガの工具よりも弱く、被削材の硬度とその表面状態によっては、すくい角がネガのカッタが向いている場合もあります。すくい角がネガの工具は、切削抵抗が大きく、切削温度も高くなります。
切れ刃ジオメトリは、それ自体切削動作の初期段階で切削抵抗を制御するので、熱の生成に影響を与えます。ワークに接触する工具切れ刃は面取りされているか、丸められているかシャープになっています。面取りまたは丸められた切れ刃は強いですが、再び高い切削抵抗と熱を生成します。一方、シャープな切れ刃はそれほど強くないため、切削抵抗が少なく、低い温度で加工できます。
切れ刃後部の T ランドは切り屑を処理し、ポジまたはネガがあります。強いが高い熱を生成するネガ配置に対し、ポジ設計では低い温度で加工が可能です。
フライス加工の切削動作は断続的であるため、一般的にフライス工具の切り屑処理機能は、旋削加工のそれほどは重要ではありません。しかしながら、関係する被削材やエンゲージ率によって、切り屑を形成し排出するエネルギーは重要です。狭く粉砕しづらい切り屑処理ジオメトリでは、切り屑がすぐにカールして、高い切削抵抗や熱を生成します。よりオープンな切り屑処理ジオメトリでは、切削抵抗が低いですが、加工温度が、いくつかの被削材と切削条件の組み合わせには適していないかもしれません。
冷却の問題
クーラント加工の操作は、金属切削加工時に生じる温度管理の、もう一つの方法といえます。過剰な温度は切れ刃の摩耗や変形を早めるので、熱はできるだけ素早く処理されなければなりません。
効果的に温度を下げるには、クーラントが熱源に直接届かなくてはなりません。しかしながら、不可能ではないにしても、高温の切削領域にクーラントを噴射することは非常に難しいことで、切り屑と切れ刃間の圧力は 20,000 バール近くにも上ります。さらに、そのような厳しい環境下では、クーラントはすぐに蒸発してしまいます。そのような状況では、クーラントは熱の除去にまったく効果的ではなく、ある程度の助けにしかなりません。
クーラント噴流がどれだけの違いを生むのか、はっきりとはわかりません;クーラントの効果はそれ自体の問題です。それは宗教のようなものです;信じるか信じないかです。一般的に、過剰な熱が予測できれば、クーラントは使用されます。例えば、溝穴加工では、クーラントの使用は概して無害です。役に立ちますが、どれぐらい使うかは議論の余地があります。しかしながら、側面加工では、切削温度が低いままなので、おそらくクーラントは使用しない方が良いでしょう。
おわりに
金属切削加工時に現れる負荷を共に生成する複数の要素は、別々では作用しません。機械加工を通してお互いに影響し合うのです。この記事では、フライス加工における熱の問題および、どのように機械的要素に関連しているのか議論しました。金属切削の負荷を構成する個々の要素と、その相互作用による全体の結果をよく知ることは、加工プロセスの最適化と、生産性と収益性の最大化に役立つのです。